神経生理学の基礎

まとめ

本解説文では神経科学の理解の基礎となる 「神経細胞の構造とはたらき」について猛ダッシュで説明した。 分かりにくいところもあったと思うが、 膜電位・伝導・伝達の説明をひとまとめに終わらせようとした無茶の結果である。 申し訳ない。

ここで扱った内容は、 運動・感覚機能や高次認知機能などのより発展的な神経科学を学習するうえで、 すべての基礎になるものだ。 基礎をお座なりにすると、 あとで信じられない勘違いをしたり、 他人としゃべっているときにとんでもない赤っ恥をかくはめになったりする。 もしも十分に理解できなかった部分があったら、 納得のできるまで、 本解説文や他のすばらしい成書の数々と向き合って勉強してもらいたい。

しかし一方で、 そんな神経科学の基礎の基礎といえども、 本文章で説明した内容を詳細まで踏み込んで網羅するのは相当に難しい。 少なくとも筆者には、 神経科学の初学者でも読め、 かつ必要十分な内容をカバーした解説をまとめるのは力不足で、 そこここに取りこぼしを残してしまった。 とくに伝達におけるシナプス前・後過程については、 最後まで執筆に苦しんだ。 結局、延々と悩んでは書き直しているうちに、 本文章の公開が何年も遅れてしまった。 最終的にはかなりの内容を省略しつつ、 自分としては不完全燃焼ながら無理やり公開に漕ぎ着けたかたちである。 だからシナプス伝達の分子薬理動態に関しては、 また別文章で改めて解説する機会をもちたい。 しかし読者のみなさんにおかれては、 そんないつ公開されるかわからない解説文を待たずとも、 興味をもった部分はどんどん自分で調べてみていただければ、と思う。

本文章では、分子というもっともミクロのレベルから神経系を切り崩しはじめ、 最終的には単一細胞の機能、そして細胞同士の相互作用のレベルまでたどり着いた。 これと対になる神経科学の基礎として、 次回は神経解剖学の基礎解説を予定している。 そこでは神経系を解剖学というマクロのレベルからはじめて分類し、 だんだんと小さな視点へと狭めていくことで、 神経系全体を概観する。 これら2つのアプローチから、 神経科学を学習するうえで不可欠なミクロ・マクロ双方の基礎知識を身につけてもらうのが、 本解説文における筆者の第一目標である。