Bach et al. (2009)

2009.02.17(Tue)

J Neurosci. 2009 Feb 11;29(6):1648-56.
Neural activity associated with the passive prediction of ambiguity and risk for aversive events.
Bach DR, Seymour B, Dolan RJ.

意思決定場面の「あいまい性」の脳内表象を調べたfMRI研究
結果と考察はすごくあっさりしているけど、タスクがけっこう複雑で分かりにくい。

あいまい性ambiguityというのは一般に「計算不可能な不確実性」であり、同じ不確実性uncertaintyでも「計算可能な」リスクriskとは伝統的に区別されてきた。
古典的な経済学の多くは意思決定場面をリスク状況でのギャンブルとして定式化し、どのような選択をするのがもっとも合理的かを興味の対象としてきた。
それに対して近年、直感intuitionに基づく選択がじつは日常生活のなかで重要な役割を果たしているという見直しがなされている。

実際ヒトの意思決定には経済学でいう「合理的」とは程遠い多くのバイアス・傾向が知られている。
また日常のほとんどの選択場面では選択のための情報が決定的に不足しており、そのなかでヒトは素早く、最適ないし準最適な選択肢を選び出さなければならない。
そこで実生活の多くの場面で存在する「あいまい性」を、脳がどのように処理して意思決定を行なっているのか、が最近の認知神経科学・神経経済学のトレンド

この研究ではあいまい状況を、一般的な計算不可能性と区別して
「本当は知っていたい情報で、かつ知り得る情報なんだけど、それを知らない状態」
“known-to-be-missing information, or not knowing relevant information that coud be known”(Camerer,1995)
として定義
すなわち絶対に知りえない情報があるだけでは、あいまいではない。
(このあいまい性の定義には反論もあがっているが…→StantonさんのeLetter

またあくまであいまい性の脳内表象をみたいので、課題としてはギャンブル課題ではなく古典的条件付けのパラダイムを採用
これにより「あいまい状況での意思決定」のための脳活動ではなく、「あいまい性の表象」そのものを検証した。

こーいう理由のため、課題は複雑
少なくともわたしは、最初Materials and Methodsを読んでる段階ではかなりさっぱりだった。
てか条件付けの4条件よりも、どんなタスクかというのを先に書いて欲しいなぁ。

要するにはfMRIに入った状態で古典的条件付けを行なう。
UCS(無条件刺激,パブロフでいうところの肉)は左手への電気ショック(ひえ~)
CS(条件刺激,パブロフのベル)は3種類の異なる視覚刺激
○と△で構成されていて、
△△○△→25%の確率で電気ショック
△△○○→50%     〃
△△△△→75%     〃
という風にUCSを予測する。
またブルースクリーンは「CSなし」を意味し、電気ショックがないことを予測する。
(パブロフでいえばベルが鳴ってない状況かな?)
もちろん被験者はこの割合を教示されるのではなく、スキャン前の80試行でこれを「体で覚える」
(CSの形状が異なるバージョンもあるけど割愛)

でこれらのCSが白スクリーン上に出たらリスク条件
一方、灰色のスクリーンで出たらあいまい条件
あいまい条件の時には、もとのCSの各ビットが20%の確率で変化している。
たとえば本当は
△△○△→25%で電気ショック
なんだけど、画面上には
△△○○…50%電気ショックと同じ画面になっちゃってる。
と出たりする。
(この場合、一番右のビットだけが変化した。)
つまり灰色スクリーンの時には、被験者は先に「体で覚えた」情報が使いにくい。
「この画面のときはかなりよく『ビリ』きたけど、もしかするとあっちの画面が変化したのかも…」

もうひとつ無知条件ignoranceがある。
これは事前の80試行で出てきたのとまったく異なる視覚刺激が出る。
よって被験者にとっては「それを見せられても全然予想がつきません」状態
情報としては無知条件のほうがあいまい条件より明らかに不足しているけれども、それは被験者にとって知りえない情報なので、あいまいと受け止められはしない、という考え方らしい。

一方あいまい条件の時には、試行後にビットの変化していないもともとのCSが表示されるようになっている。
この呈示により、被験者に「あーやっぱりこっちの条件だったのか」感を与えようと。
つまり“information that could be known”を認識させるわけね。
うーん、なるほど。

で結果
まず皮膚コンダクタンスをとっていて、条件付けが起こっていることを確認
CS-および3種のCS+間で、先行性のSCRに差があった。
イメージングのほうは、あいまい条件においてリスク条件・無知条件より活動したのが、両側の下前頭回の後部,左半球の中前頭回・上頭頂小葉など。
中・下前頭回ということで、意思決定研究としてはそれっぽい場所が出たカンジか。
でも課題がイレギュラーなので、意味するところは少し議論がありそうな…