まとめ
結語に先立ち謝罪しておくと、 本解説文はじつは現時点で未完成である。 本当は現行の3節のあとに、 大脳の神経解剖のみに踏み込んだ第4節をつける予定だった。 しかしそれを書いていると、 本文執筆に時間がかかるのみでなく、 そのぶんのイラストを作成し終えるまで本解説文を公開することができない。 仕方なく、 いまのところ第3節までの内容で公開している。 第4節で扱う予定だった大脳基底核や大脳辺縁系といった用語については、 現状、触れずじまいである。 続きはできるだけ早く完成させたいと思うので、 どうか寛容なこころで待っていただけるとありがたい。
さておき本解説文では、 おもにマクロ解剖学の観点から、 神経系の構造と分類を解説した。 次から次へと用語が出てくるので、 眠たい文章になってしまったのは申し訳ない。 しかし身体器官の解剖学的な構造を知ることは、 その器官の機能を理解するために不可欠な第一歩である。 すべての器官は、 それが任された機能をまっとうするため、 その役割の達成を可能とする形態へと進化するなかで、 現在のかたちにたどり着いているからだ。
そもそも、 すべての生体機能は実際に存在する生体内の器官で営まれており、 解剖学的な構造なしに機能は存在し得ない。 われわれの「高尚な」精神機能でさえ、 その実態は、 体内に存在する神経系という生体組織の活動にすぎないのだ。 そのことを忘れ、 実際の脳の構造などまったく知らないままに脳の機能を探究することなど、 まるで愚行である。 しかしこと神経科学においては、 脳のはたらきを研究していながら、 神経解剖については「し」の字も知らないといった人が意外なほど多い。 言われなくてもわかるだろうが、 神経解剖の「し」の字を知らないことは、 神経科学の「し」の字を知らないこととおなじである。 この解説文は、 そうしたせっかちな機能主義症候群を是正しようという趣旨のもと、 神経解剖学の基礎知識の学習機会を提供するため作成されたものである。
今後、神経系のさまざまな機能を学習する際、 それを「名前だけ知っている想像上の登場人物が織りなすSF」としてみてしまうか、 「実体ある神経組織が生体内活動によって成し遂げる奇跡のノンフィクション」 として楽しむことができるかには、 天と地ほどの違いがある。 もちろん初学者が本解説文の内容を一気に覚えるのは、 さすがに困難だろうと思う。 しかし根気強く復習することで、 神経系を具体的なイメージをともなった実体として思い描けるようになるよう、 なるべくていねいな説明を心がけたつもりだ。 これから神経科学を学ぶ際、 登場する神経構造の解剖学的な実体にも、 その都度、意識を向けるよう心がけてほしい。 それこそが、 神経科学を深く楽しむために不可欠なプロセスだと信じている。