Diffusion Tensor Imaging 特集

2009.05.25(Mon)

Neuron. 2006 Sep 7;51(5):527-39.
Principles of diffusion tensor imaging and its applications to basic neuroscience research.
Mori S, Zhang J.

Brain. 2007 Mar;130(Pt 3):630-53.
Association fibre pathways of the brain: parallel observations from diffusion spectrum imaging and autoradiography.
Schmahmann JD, Pandya DN, Wang R, Dai G, D'Arceuil HE, de Crespigny AJ, Wedeen VJ.

Neuroimage. 2009 Jul 1;46(3):600-7.
White matter plasticity in the corticospinal tract of musicians: a diffusion tensor imaging study.
Imfeld A, Oechslin MS, Meyer M, Loenneker T, Jancke L.

Brain. 2009 May 21. [Epub ahead of print]
Defining Meyer's loop-temporal lobe resections, visual field deficits and diffusion tensor tractography.
Yogarajah M, Focke NK, Bonelli S, Cercignani M, Acheson J, Parker GJ, Alexander DC, McEvoy AW, Symms MR, Koepp MJ, Duncan JS.

またかなり開いちゃいましたが、論文紹介です。
だいぶ前から拡散テンソル法のレビューを書いてくれというリクエストをもらってたので、一挙に紹介します。
べつに忘れてたわけではないんですが、あれこれ雑事に追われてるうちに遅くなりました。

まず1本目は2006年のNeuronに載った、拡散テンソル画像法(Diffusion Tensor Imaging,DTI)の方法論的文献
この論文のイントロダクションによれば、DTIは1990年代中ごろから実用化された方法で、近年だんだんと実用的な利用がなされてきている、とのこと。
本文献は、イントロに
The purpose of this review is to explain how DTI works and to introduce state-ofthe-art neuroscience research using DTI.
とあるように、DTIの原理とその応用についてレビューしたもの

短いレビューだが、原理まわりのことが比較的詳しく書いてあり、たいへん勉強になる。
数式もぼちぼち出てくるけど、数式よりもそこに至るまでの本文の内容のほうが難しいかもしれない。
とくにT1・T2・TE・TRといったようなMRIのパラメータが出てくるので、そのへん多少前知識がないとキツイかも。
ただDTIの基本を知るための文献として、たいへん有用だと感じた。

あ、そういえばいきなり本題に入っちゃったけど、DTIって手法をそもそも初めて聞いたみたいなひともいるのか。
DTIというのは、ひとことでいってしまえばMRIの一種で、
軸索内での水分子の拡散における方向性をMRIで非侵襲的に記録することで、白質内の線維走行を画像化する
という手法のコト
とりあえずイントロからFigure.2ぐらいまでの部分を読むと、雰囲気はつかめるかもしれない。
こういう新しい手法について学ぼうと思ったら、和書は望むべくもないし、かといって専門外なのに洋書買うのも大袈裟なカンジ。
なので、こういうレビューがwebで得られるのは重要だと思う。
オープンアクセスになってるので、大学外からでも普通に読めるし。

で2本目は、Brainの2007年の記事で、DTI(というか実際はDSI)を用いてサルの脳内における神経索を画像化したもの。
こちらもフリーで読める。
DSI(拡散スペクトラム画像法,Diffusion Spectrum Imaging)というのは、DTIの進化版みたいなもの。
DTIにおける平均化の問題点(e.g. 単一ボクセル内に異なる配向の軸索が混ざりこむことによる解像度の劣化)を、改善した手法らしい。
これを使って本論文では、サルの脳の線維走行を詳細に記述している。
DTIについてよく知らなくても、Fig.2をみたとたんに
「なんか凄いな…」
という感想は抱くんじゃなかろうか。
攻殻機動隊の世界かとおもた(笑)

ちなみにこの論文は、わたしがFusterの"The Prifrontal Cortex"の2章の授業準備をしてるとき、白質線維走行について調べててみつけたもの。
Fusterには抗体染色やオートラジオグラフィーの文献がたくさん引用されてるけど、それとまったく同じ結果が、より美しく示されていて、本当にびっくりした。
いや、実際感動した。
図は上縦束・弓状束・鉤状束…などのように線維束ごとにまとめられており、"Fiber pathways of the brain"という成書のイラストが一緒に載っていてたいへんみやすい。
またResultsとDiscussionでも線維束ごとに起始部位・終止部位・走行などがまとめられており、分かりやすい。
実際わたしは最外包の走行について調べてたんだけど、この文献のDiscussionがあまりにも簡潔にまとめてくれていたので、あっけにとられたほどだった。
Kandelとか改訂されるなら、こういう新しい手法をもちいた線維連絡の知見も盛り込まれるといいと思う。
白質については、「白質専門」の本を読む以外ではあまり詳しく触れる機会がないと思うので。
ていうかこの論文を、そのまま教科書の一章として埋め込んじゃえばよくね?みたいな、すばらしい文献

さて、残り2つはDTIを用いた研究例ということで、わたしがチェックしてるジャーナルに最近出たヤツをもってきてみた。
NeuroImageのほうは、長期的な運動学習により皮質脊髄路を構成する白質にも可塑的な変化がみられる、というもの
音楽家と一般被験者で、皮質脊髄路のDTI像を比較している。
この話題に興味があるかどうかで読むモチベーションは違ってくると思うけど、Fig.1・2なんかはそれとは関係なく普通に授業とかで使えそう。

もうひとつのほうは最新号のBrain(2009年6月号, 132(6))の表紙になっている。
てんかん治療のための側頭葉切除による視覚障害と、Meyer's loopの損傷との関係を、DTIで調べたもの。
ちなみにMeyer's loopは「市長の側近」のことではなくて(#Mayorだしなそれ)、LGNを出て一旦前外側に張り出してからV1に向かう線維(視放線)の前端の湾曲した部分
ようするに側頭切除時にこの線維が破壊されてしまうと、視覚障害が起こりうるということを示している。
てんかん治療のための側頭葉前部切除術というのは、医学的にいまなお重要な方法であり、それにおける視覚障害のリスクを事前にイメージングで定量できるかもしれないという、応用上なかなか意義深い論文

ということでDTI関連で4つほど紹介してみました。
わたしとしてはDTIの原理に興味があれば1つ目のMori & Zhangが、DTIという手法のすごさをまず感じたければ2つ目のSchmahmann et al.がオススメ
DTIに関してはこれからもどんどん研究結果が増えていくだろうし、大脳皮質の機能を考えるうえでのFundamentalな知見として有用という側面もつよいです。
この機会にあるていど把握しておくとよいかもしれません。