第37回 日本神経科学大会(2014)の記録

2014年の神経科学学会で見聞きした内容のメモ書きです。
公開してはいますが、至極個人的なメモです。
なので、感想にはわたしの色眼鏡が多大に影響していますし。
理解不足や間違え等もあるかとおもいます。
悪しからず。

著者多数の場合は、ファーストとラストの2名。
あるいはラストに準ずるひとを追加した3名を表記します。
(みやすさの優先のため。)
アスタリスクつきのポスターは、自分で読んだだけのヤツ。
アスタリスクなしは、発表者さんに説明してもらったものです。

あと、すいません。
このメモ書きはじめて、早数年ですが。
いままで明記してなかったことに驚愕したので、書いときます。
著者名は不躾ですが敬称略とさせてください。
よろしくお願いします。

基本情報

今年の会場はみなとみらいのパシフィコ横浜。
京都勢には遠くていちばん面倒な開催地です。
大会長は京大の髙橋良輔先生。

ここ最近、無駄に会期を4日間にしていた神経科学大会ですが。
去年は3学会合同大会なのに、会期3日で。
今年もそのままの流れで、3日間。
うん、それでぜんぜん問題ないわ。

スケジュール

3日間の自分の行動。

初日の朝移動だったので、1日目はやや遅れて到着。
また3日目は帰学後に作業があったので、早めに抜けました。
やっぱ横浜は遠いよ。

ここ数年は、シンポジウムよりポスター重視で動いてましたが。
今年はとくにその傾向が顕著となり。
会期中、ほとんどポスター会場にいました。
ランチョンすら、1時間拘束はけっこう痛いので。
聞きたいのがなければ、スルーしてポスターみてました。



トーク

1日目(2014.09.11)

S1-F-2 BMIとニューラルオペラントによる神経活動の随意的制御
櫻井 芳雄, Eberhard Fetz

櫻井先生のニューラルオペラントのシンポ。
今年はほとんどシンポジウムを聞かなかったんですが。
このシンポはとても面白かった。

櫻井先生は、細胞の発火頻度と同期発火のオペラント強化について。
データ自体は聞いたことのある内容だったんですが。
質疑の際に出ていた、
「発火頻度と同期性って、必ずしも別々の現象ではない」
「極小binでの発火頻度強化 = 集団全体の同期性の強化」
「bin幅を工夫すれば、もっと連続的に捉えられるのでは?」
というコメントが興味深かった。
いわれてみれば、そのとおりだよな…。

なにぶん、あたしは門外漢なのですが。
各トークのイントロで、研究史とかが説明されてたので。
この分野の外観が把握できて、勉強になった。

こないだNatureに載ってたBCIのヤツも、
ハード的制約上、取り難い発火パターンがあるのは当然
とか思ってたんですが。
筋と運動ニューロンを乖離強化できるとか、知らなかったんで。
そのレベルの可塑性や柔軟性があることを前提とすると、
複雑な網状構造でもなお、発火パターンに内因的制約がある
ってのは、当たり前でもないわけか。

まあ、言い古されたことですが。
BMIという一見マニアックな実験から得られるのが
神経系が生来に内在している機能と制約
というシンプルな知見であるのが素直に面白い。

2日目(2014.09.12)

S2-F-1 理論と実験の共軛による神経回路の機能解剖
石井 信, 能瀬 聡直

2日目の朝一はシンポジウムへ。
もうね、ここ最近慢性疲労なせいか。
朝の元気なうちしか2時間のシンポに耐えららん。

このシンポジウムのテーマは、神経回路の機能とダイナミクス。
色んなアプローチによる、回路研究のはなしが聞けましたが。
それだけに、機能的観点では扱ってるものがバラバラ。
運動から侵害覚から報酬系から。

あたしに馴染み深い内容は、松崎先生の発表ぐらいだったかな。
Nat Neurosciに載った、正水さんのデータですね。
学習における運動野ニューロン網の層間差異。
vivoイメージングで細胞を縦断観察できる世の中とは…。
いと恐ろしい。

電顕のコネクトームとかは、もはや完全に門外漢なので。
単純に「すげー」くらいしか感想がないという。

あと、森田先生の価値学習の話はわかりやすかったです。
RPEの定式化としては、率直で飲み込みやすいし。
実際のデータとあわせるには、制約要りそうだけど…。

LS-8 ライブイメージングを用いた脳神経メカニズムの解明
~脳スライスカルチャーから個体脳まで~
宮田 卓樹, 喜多村 和郎

オリンパスのランチョンセミナー。
初日のランチョンは、ナリシゲのが聞きたかったけど取れず。
3日目はランチョンスルーしてポスター会場にいたので。
今大会、唯一食べたまっとうなお昼ごはんです。

1人目の宮田先生は、神経発生のはなし。
前駆細胞から分裂する際の、細胞のmigrationについて。
あたし、神経発生は教科書レベルのことしかわからないので。
正直よくわからないまま、動画を眺めてたというカンジ。

2人目の喜多村先生は、vivoイメージングについて。
最近は遺伝的にindicator入れるのがラクだし多いけど。
使う場面によってはケミカルも悪くないとか。
実用上、興味深い内容だった。

当然シナプスイメージングなどの面白さは、言わずもがな。
充実した昼ごはんタイムでした。

ポスター

1日目(2014.09.11)

P1-150 運動課題遂行中のラットにおける運動野細胞の同期的活動の集団特性
木村 梨絵, 酒井 裕, 礒村 宜和

ちょうど説明中だったので、聞こうと思ったんですが。
前から2番目の位置にいたのに、まったく聞こえず(笑)
最前列のお一人様に、ポスターのほうを向いてしゃべられると、なぁ…。

P1-151 ラットの一次・二次運動野における共通した運動情報に対する異なる修飾
齊木 愛希子, 酒井 裕, 礒村 宜和

これも聞きたかったけど聞けず。
こないだPLoS ONEに出たヤツの内容だと思うんですが。

そもそもなんでPLoS Oneに出したんだろう?
RFAとCFAで、思ったほど差がなかったってのはわかるけど。
それにしてももったいなくね?
やっぱ、とっとと通すためかな…。
日数的には、2ヶ月弱ですんなりアクセプトされてたし。

P1-152 連続ボタン押し課題における自動的リズム同調
宮地 重弘

霊長研の中村先生のところの、宮地准教授のポスター。
たまたまいらっしゃったので説明してもらえましたが。
単著て。

簡単にいうと、視覚/聴覚性の単純反応課題。
何百msぐらいのランダムな間隔で、延々と刺激が呈示されるから。
刺激がでたらなるべく早くキー押しをするだけの課題なんだけど。
ときどき一定間隔のリズミックな系列が生じるようになってて。
そういうときに、系列後半の反応が早くなるっていう。
いってみれば、定間隔刺激によって反応リズムがつくられる。

面白いのは、それが相対的なISI長依存ってところ。
1試行内では3種類(たとえばS/M/L)のISIが使われてるんだけど。
その3種類のうち、一番短いISIが並ぶとRTが早くなっていく。
このとき、長さMのISIの連続では、RTが早くならないが。
M/L/XLのISIからなる別の試行では、M系列でRTが漸減する。

ホントに「自動的」かどうかの証明は難しそうですが。
現象としては率直に面白い。

P1-160 随意、不随意まばたきとその前後で起こる眼球運動の解析
田中 文哲, 小林 康

聞きたかったけど、演者さんに出会えず。

P1-161 ヒトマイクロサッケードは疲れを反映する
浅原 舜平, 小林 康

同上。

疲れるとマイクロサッケードが増加するってハナシらしく。
瞳孔径との相関から、自律神経関連→疲労ってつなげてたが。
マイクロサッケード頻度って、明るさに依存しますよね?
実験環境は一定の明るさだったとしても、瞳孔径が
そのひとにとっての主観的明るさ
を反映してて、それが交絡してるって可能性はないのかな。

P1-162 聴覚的注意はマイクロサッカードの位置制御に影響を与えうる
米家 惇, 柏野 牧夫

注意を向けている最中は、マイクロサッケードが減少するが。
それが聴覚キューでの注意でも起こるか、という実験。

結論からいうと、聴覚性注意も影響を与えるってことなんだけど。
解析手法がとても興味深い。
注視位置の維持を、一種のサーボ機構とみなしてやって。
その軌跡を制御工学で使われてる関数でフィッティング。
得られたパラメータで、注意制御の影響を評価するっていう。

まあ、みられた軌跡の特徴がどこに依存してるかは謎で。
筋の弾性の影響とかの可能性もあるわけだけど。
注意の効果があるなら、なにがしか支配してる側が関与してるわけで。
いずれにしても面白いだろう。

まだ論文になってないとのことだったので。
論文化されたら、ぜひ参照したい。

P1-178 マカクV4ニューロンの自然テクスチャ選択性を説明する画像統計量
岡澤 剛起, 小松 英彦

去年の包括脳でも説明聞いた、V4ニューロンのデータ。
29個だかの画像統計量から膨大なテクスチャ画像を生成し。
それをサルにみせながらV4のニューロン活動を記録。
V4においてテクスチャ情報がどのように表現されてるかを調べた実験。

用意した少数の刺激セットを決め打ちで使うのではなく。
記録しながら、選択性をあぶり出すよう呈示刺激を変えていくっていう。
気のきいた記録手法です。
見習いたい。

P1-225 実物把持課題における素材カテゴリーに依存したサルの行動
横井 功, 小松 英彦

同じく小松先生の、質感シリーズのひとつ。
質感刺激を、画像としてみせるのではなく。
把持課題によって実際に触れられるレバーとして呈示したもの。

結果としては、なんかすごく単純で。
サルにはすぐ触る質感と触るのを嫌がる質感がある、っていう。
顕著に嫌うのは、毛だそうな。

ムービーでみると、石や金属のバーはすぐ手を伸ばして把持するけど。
毛が生えたバーだと、指先で毛をつまむような動作をしてて。
そのあいだにタイムアウトになっちゃう。
まあ、それはわかったけども。
ここからどう広げていけるんだろうか…。

P1-228 Neural mechanisms of integrating others' outcomes to make one's own decisions
福田 玄明, Hiroyuki Nakahara

報酬関連の最近のトピックのひとつ。
他者の得る報酬が自分の選択行動に与える影響。
と、その神経基盤の機能的イメージング研究。

自分がある金額をもらえる条件だけでなく。
他者にも利得が生じる選択肢を出してやって。
その間の脳賦活をみるオーソドックスなアプローチ。

演者さんがいなかったので、詳しい手続きがわからなかったけど。
図でみると、報酬が自他ともにプラスの額のみなのが気になった。
モデル上も、他者への報酬による価値更新がプラスだったし。
つまり、他者にも報酬が出る選択肢を選びたい、と。

いやまあ、それがヒトとして正しいあり方なのは結構だけど。
あたしだったら、逆だけどな。
自分の利得を削ってでも、他者にpunishできる条件も必要じゃね?
「他人の不幸は蜜の味」じゃないの?

P1-241 行動決定における報酬価値情報処理に関連したアカゲザル眼窩前頭皮質のニューロン活動
瀬戸川 剛, 設楽 宗孝

記憶違いでなければ、去年と同じ内容と思うけど…。
ニューロンが増えたってコトかな?
どのへんが新しくなった部分なんだろうか。

P1-246 脅威刺激に対する認知バイアスの検討
山野 恵美, 渡辺 恭良

一般的な認知課題において、刺激に情動語を使うようにしてやって。
それによる成績への影響とSTAIとかとの相関を取ったという実験。
昔あたしもこーいうことやってたので、読んでみた。

こういう実験って、まあいろいろ相関は出てくるんだけど。
結局は解釈の仕方如何で、どうとでも言えるというか。
意外にスパッと明確な結論は出しにくいですよね。

P1-248 1人称視点からの模倣モデルの提示が運動感覚情報を提供することの検討:fMRI研究
渡邊 塁, 菊池 吉晃

ミラーニューロンビジネスの流れを汲んだ実験で。
手の写真を見つつ、指示されたのと同じ指を上げる課題で。
一人称/三人称視点のときでの脳活動比較。

なんかもう、ミラーニューロンシステムということばが便利すぎて。
どこ光ってもよくねっていう気がする。

あと、すごい単純な疑問なんですが。
「一人称」「三人称」という言葉の定義について、
  • 一人称 ... 手首側が手前になった手の写真
  • 三人称 ... 指先側が手前になった手の写真
っていう意味で使うのがスタンダードなの?
あたしの思い描く絵と違うんだけど。

P1-251 ラット海馬シータオシレーションは時間間隔弁別に関与する
中園 智晶, 佐野 知美, 櫻井 芳雄

櫻井研の時間弁別シリーズの発表。
セカンドのひとの修論の再解析データだそうな。

ざっくりいうと、ラットにノーズポークで時間弁別課題をさせ。
その間の海馬の神経活動を記録した実験。
課題としては、最初にセンターホールにポークさせ。
1または3秒間の遅延後に、左右のホールが開くので。
どっちの長さだったかにより、左右に反応し分けさせる。

記録対象は海馬。
海馬といえば場所細胞が有名ですが。
その「時間版」にあたるtime cellなるニューロン群がいて。
特定の時間経過後に、一過的に発火する。
また、やっぱ海馬なのでシータ帯LFPも重要だから。
それらの関係を調べる、と。

結果、たしかにtime cellの特徴を有した単一細胞活動がみつかり。
一方LFPでは、1秒経過時点をピークとするシータ帯の増強がみられた。
この時点は、1・3秒条件をみわけるキモになる時間帯なので。
おそらく時間弁別になにがしか関係してるだろう、と。

ただ、その先がなかなか難しい。
当然、同時にとったspikeとLFPの関係を調べてるものの。
現時点では、あんまり面白い関係はみつからなかったそうな。
なので、低周波LFPと情報表現の絡みでいえば、
シータ波が発火による時間情報のリードアウトを助けてる
みたいなシナリオがすぐ思い浮かぶんだけど。
それを指示するデータは、いまのところなし。
悩ましいわな。

P1-253 サル視床内髄板周囲の時間予測的活動
松山 圭, 田中 真樹

北大の田中先生のラボのデータ。
一定間隔で鳴ってる聴覚刺激を鳴らしておいて。
それがランダムに1発抜けるので、それを検出して反応する。
いわゆる欠落オドボール課題。
記録部位は視床。

特徴的な課題関連活動は3種類あって。
1つめは、刺激ごとに一過性興奮を示すタイプ。
こういうひとは、系列呈示中にだんだん応答が弱まっていく。
2つめは、刺激に対して一過性の発火抑制がみられるタイプで。
これは逆に、系列が進むにつれて抑制が強まっていく。
で、3つめがその間の子的なスイッチタイプで。
最初は刺激に対する一過性興奮をしてるんだけど。
系列のなかで、だんだん抑制に変わっていく。

考察としては、ある意味単純で。
感覚性の興奮性応答は、皮質にグローバルにみられる。
一方、だんだんと強まる抑制性の反応は、小脳で知られている。
で、その両方から投射をうける視床で、それらが単純に加算され。
最初は興奮で、あとあと抑制にスイッチする活動がつくられる、と。

うーん、ヒストグラムの加減乗除としてはそれでいいんだろうけど。
そうまでしてつくるスイッチ型の活動の機能的意義はなんなの?
発表者さんは、
「刺激の欠落に対する注意の高まりを反映してるんじゃ?」
とおっしゃってたが。
それだったら、スイッチせずとも単にbuild-upすればいいし。
一過性のtransientである必要もないわな。

そもそも、2番目のタイプは系列の初頭では応答がなく。
系列が進むと、だんだんと抑制が強まっていくが。
これは試行ごとにISIの値を変化させてる影響と考えられ。
1音聞いただけでは、その試行でのISI長がわからないけど。
系列を聞くなかで、そのISI長に対する構えができあがって。
その段階で、小脳でのタイミング処理が可能になるからって説明された。

だとすれば、感覚情報はまず皮質の興奮性応答として表現され。
それが一旦小脳に送られて、抑制性の応答をつくりはじめ。
さらにそれらが視床で合成されて、スイッチ型をつくりだすという。
なんとも手の込んだ過程を経ていることになる。
その結果できたややこしい活動が単に「注意の高まり」ってのは。
あんまり腑に落ちない。

あと、データそのものとは直接関係ないハナシですが。
波形やバースト特徴から細胞種推定したか聞いたら、
「細胞外記録でそんなことやっても結局は無意味」
と一蹴されてしまった。

まあ推定でしかないってのはわかるけども。
そこはべつに、とりあえずやってみればいいんじゃない?
それで発火パターンと細胞種の相関とかみつかれば、儲けもんだし。
みつからなきゃ、それはそれで失うものはないんだから。

個人的に、慢性記録で一番もどかしいのは、
記録中のその細胞が「どんなひと」なのか見れない
ってところだと考えてまして。
面白い活動をする細胞がいたとしても、その機能を考えるときに
その面白い活動パターン自体
以外に手がかりがないんですよね。
かといって、神経活動の機能に解釈をつけるときの根拠が
「だってこんなに面白い活動なんだもん」
では、さすがにもう納得してもらえない。
たとえば齧歯類では、日々、方法論が進歩してて。
回路機能に踏み込んだ研究がジャンジャン出てるわけだから。

いくらサル使ってるとはいえ。
面白い発火パターンの細胞にあぐらをかいて、
結局それは回路内でどういう役割を果たすの?
ってトコに盲目だと、逸話的研究で終わっちゃう気がして。
時代から取り残されてくんじゃないかと思う。

だから、電気生理屋は逸話的なニューロン探しに終止するのでなく。
みつかった活動の回路内でのはたらきを意識してないといけない。
その手がかりになるなら、試せる解析なんでも試してやって。
推測でもいいから、ニューロンのサブタイプを調べるとか。
できることやってみるのがスジだと思ってるんですが。
そういうモチベーションは、あんまり一般的ではないんですかね。
なかなか大きな問題意識の乖離を感じました。

P1-254 サルにおけるmoving cast shadowsによる奥行き知覚について
水谷 真之, 泰羅 雅登

サルを用いた奥行き知覚の実験で。
影の移動により、前面オブジェクトが浮き出てみえる錯視。
あれがサルにも効きますよー、っていう行動実験。

課題としては、単純な弁別反応課題で。
実際に両眼視差で輻輳開散方向に視覚刺激を移動する条件と。
それを影の移動で表現する条件の試行を用意。
結果、サルは影の移動から奥行きの変化を捉えることができた、と。

P1-271 運動課題学習中の一次運動野第2/3および第5a層での集団および個々の細胞における神経活動変化
正水 芳人, 松崎 政紀

シンポジウムでも聞いた、正水さんのM1二光子イメージング実験。
残念ながら他のかたに説明中で、詳しく聞けなかった。

P1-272 ニューロンの抑制による記憶の形成と想起
原 宏士朗, 池谷 裕二

光遺伝学的刺激は、ChR2にみるとおり大興隆まっただなかですが。
抑制のほうはいまひとつ効果がハッキリしないケースもある。
そこで、マウスにArchae入れて調べました、という実験。
結果、光遺伝学的抑制は古典的条件づけの条件刺激にもできるし。
T迷路の手がかり刺激にもできたそうな。

P1-273 繰返し想起による異なる二つの記憶痕跡の相互作用
横瀬 淳, 井ノ口 馨

マウスに2種類の異なる条件づけ学習をさせ。
それらの記憶痕跡の相互作用の過程を調べる研究…かな?
演者さんがおらず、詳しく聞くことができなかった。

P1-373 独立な雑音入力による電気生理学的特性の異なる神経細胞間での同期発火の増強
内田 豪, 谷藤 学

人工ニューラルネットワークでの計算機研究。
情報表現に発火の同期性が重要なのはいわずもがなだけど。
異なる時定数をもつユニットからなるネットワークを仮定した場合。
微弱なノイズがある場合のほうが、同期発火率が高かった。
理由は、ノイズにより時定数から外れた発火の可能性が生まれるので。
時定数の異なる細胞間で、偶然の同期発火が生じうるようになるから。
…っていうことだと思う(自信なし)。

2日目(2014.09.12)

P2-142 サル下側頭葉視覚連合野(IT)において空間的注意が浅層と深層で異なる受容野の大きさと形の変化を引き起こす
小原 慶太郎, 谷藤 学

サルに画面四方の1ヶ所に注意を向けさせる課題を訓練。
その間、注意対象とは別にプローブ刺激を色んな位置に出す。
プローブに対するITニューロンの視覚応答から、受容野を推定して。
その形状が注意の向きによって変わるかを検討したという実験。

発想としては非常に実直なつくりの実験で。
注意の方向に、受容野が引っ張られそうな気がしますが。
実際、結果をみてもそのとおり。
たとえば右上に注意を向けてると、受容野も右上に伸びる。

で、この実験では記録にaxial-arrayedな電極をつかってて。
それを垂直に入れることで、皮質層を推定し。
ITニューロンを浅層と深層にわけています。

この、
層によって上記の注意の影響が違う
って部分がポスターの売りだったハズなのですが。
聞きにいってみたら、差があったのは受容野のサイズくらいで。
受容野に対する注意の影響には、層の効果はなかったそうな。
正確には、抄録登録の時点では差がありそうなカンジだったけど。
ニューロン数増やしたら消えてしまったとのこと。
そりゃ残念。

P2-143 下側頭葉神経活動の刺激選択性は行動タスクに応じて変化する
大橋 一徳, 谷藤 学

みた気がするけどメモが残ってない…orz

P2-145 二種類の色空間におけるサルV4ニューロンの色選択性の比較
波間 智行, 小松 英彦

色の電気生理研究において、どの色空間を使うかという問題がある。
生物学的に支持されてるのは、錐体細胞の性質に依拠したDKL空間とか。
実際、多くの研究でDKL上で色刺激をつくってる。
でも、物理工学的にシンプルなのはCIEみたいな空間。
そもそもCIEのほうがディスプレイの可表示域を広く使うから。
構築できる色のバリエーションが多い。

そこで、CIE空間で刺激を配列してニューロン応答を取り。
それをもとにDKL空間上でのチューニングを推定できれば。
研究報告間での色空間の差の問題はなくなるよね、っていう実験。
CIEとDKLの両者について、等距離に配置した刺激セットをつくり。
両者に対するV4ニューロンの応答を取って、結果を比較してる。

まあ、やってることはわかるんですが。
色空間がそこまで深刻な問題なのか、あたしには分かり兼ねました。
定義により、各色空間がカバーできる色の範囲が違うので。
完全に相互変換できるわけじゃないってことは、理解してるけど。
でも基本的には、説明変数の変換の問題なわけで。
極座標空間で取った活動から、xy平面での空間チューニング出す
みたいなものでしょう?

それに、CIEのほうが広い色範囲をカバーしてるなら。
CIE→DKLの変換にはそんなに苦労はないような。
あんまりスパースだと、DKL上での点の数が足りないだろうし。
逆のDKL→CIEとかは、不良設定になっちゃいそうとは思うけど。

P2-147 視覚野を抑制するマウス頭頂連合野
菱田 竜一, 澁木 克栄

一次感覚野は、皮質における最初の情報表象を担うが。
その段階において、すでに上位皮質からの制御も受ける。
この研究では、マウスの頭頂皮質とV1との関係に注目し。
頭頂皮質がV1の活動を抑制できることを示した。

やってることはシンプルなんですが。
「実際に頭頂皮質がV1を制御してるんですよ」
ってことを示すため、色んなアプローチを組み合わせてて。
単純に、電気刺激や局所破壊をするだけじゃなく。
ムシモルやケージド化合物使ったり。
フラビンみたり。
すごい丁寧にされる仕事だなぁと感銘を受けました。

P2-216 サル睡眠時の紡錘波と徐波の相関
竹内 佐織, 逵本 徹

サルのいろんな皮質領域に電極を埋め込んでやって。
睡眠中の紡錘波と低周波成分の関係を調べた実験。
結果、領域ごとに紡錘波自体に違いがみられ。
低周波のどの相で紡錘波が始まるかも違った、と。

現象としては理解できましたが。
とくに機能的な相関をみているわけではないので、
「もしかしたら睡眠中の記憶固定に関わって云々」
といわれても、よく意味がわかりませんでした。
難易度の違う学習課題とかやらせないとダメじゃないのかな。

P2-217 サル新皮質と海馬におけるNMDA受容体のガンマ波制御
村井 理絵, 逵本 徹

受容体がどうのっていうタイトルになっていますが。
分生的なことではまったくなくて。
ケタミンを静注してLFPをみたということでした。

結果、特徴的なバーストのオン・オフが観察されたとのことだけど。
そこからどうハナシが広がるのかが、よくわからず。
演者さんに聞こうと思ったけど、前のオーディエンスと
"シータじゃねえのコレ?"
"Mmmmmmm... I don't know..."
というやりとりをしてて、聞けなんだ。
シータの影響かがわからないというより、
"I don't understand what you are speaking of."
ってカンジでいらっしゃいましたが。

P2-219 高架十字試験の構造とオープアーム探索行動の関係
堀井 康行, 川口 真以子

ラットの高架十字迷路について。
アームのつくりによって行動データも変わりますよ、って実験。
まあ、そりゃそうだろうけど。
このへんの標準化って、されてないんですか?
あ、ちなみに脱字は抄録のままにしています。

P2-229 自由選択課題における作業記憶ベース戦略と価値ベース戦略
伊藤 真, 銅谷 賢治

いわゆる二肢強化学習課題だけど。
選択試行のあいだに、選択の余地のない試行を挟み込み。
そのときのラットの行動戦略と神経活動を記録した実験。
超聞きたかったのに、タイミングが悪くて詳細が聞けなかった。

P2-231 皮質盲の視野に提示された条件刺激に対する中脳ドーパミンニューロンの応答
高桑 徳宏, 伊佐 正

結論からいうと
皮質盲のエリア内の視覚刺激でも古典的条件づけが成立し
CSに対するドーパミン細胞の応答も、予測報酬量依存になるから
中脳報酬系への視覚入力は視蓋経路に依っている
ってことみたい。

詳しい手続きを聞こうにも、演者さんがみつからず。
ポスターには詳細な文字説明がなかったので。
かろうじてストーリーを読み取ったカンジです。
細かいところは理解できてないから、間違ってるかも。

P2-232 サル尾状核・被殻における報酬誘発ドパミン放出の同時リアルタイム検出
吉見 建二, 井上 雅仁

個人的にはけっこうレアだと思う、ボルタンメトリー使った研究。
炭素電極を線条体に刺入して、サルに報酬課題をやらせ。
黒質ニューロン活動と一致するドーパミン放出を検出できた。

お話によれば、同様の方法は皮質記録でも使えるし。
ボルタンメトリーのコマンドの合間に、細胞外記録も取れるので。
皮質における神経修飾の検討にも使いうる。
ただ、皮質は線条体と比べるとドーパミン濃度がそもそも低いし。
他のカテコールアミンと分離するのも難しいので。
そのあたりが課題になるとのこと。

それはそうと、ポスターのいちばん下に
サルまわりがお取り潰しになるので、方法論の問い合わせはお早めに
という注釈があって胸を打たれた。
えー、順天全体の方針ってこと?
それとも、ボルタンメトリー関連ではサルから手を引くってこと?

P2-234 線条体におけるドーパミン濃度の穏やかな上昇を説明する強化学習モデルの検討
加藤 郁佳, 森田 賢治

聞きたかったけど、タイミングが合わずに聞けなかった。
「ドーパミン=報酬予測誤差」ってのが強化学習のドグマになってるが。
それとは異なるタイプのドーパミン放出も見つかってるので。
それに合うようなDA動態モデルをつくる、みたいな研究。
けっこうシンプルな仮定で面白そうにみえました。
詳しく聞けなくて残念。

P2-254 学習した系列の想起に関連する海馬-前頭連合野ネットワークの協調的活動
石野 誠也, 櫻井 芳雄

系列ノーズポーク課題中のラットのLFP記録。
前頭連合野と海馬から記録してる。

5つのポークホールから、指示された位置にノーズポーク。
これを3回繰り返すと正答となる。
ここで、3ヶ所の系列に仕込みがしてあって。
ある系列では、次に指示されるホールが固定されてるので。
ラットは最初の反応の時点で、次以降の行動を予測できる。
一方、2・3回目のホールの位置が固定でない系列もあり。
この場合、ラットは刺激をみて反応しないといけない。

解析では、試行内のLFPと行動との相関を取ってて。
抄録に載せてないようなので、詳しくは書けないですが。
ある時点での領域間コヒーレンスが、のちのちのRTと相関、など。
けっこう面白い。

ただ、その解釈として記憶想起につなげてるけど。
そこは他の要因の交絡がないか不安なところ。

予測可能/不可能な系列間で、強化の履歴が違いそうなので。
必然的に報酬期待が違うだろうし。
そもそも難度は違ってて然るべきつくりなワケで。
ある負荷条件でのみ報酬期待の影響がでてる、とかかもしれない。
…査読者から目を付けられそうな気がする。

あと、ポークアウトから次のポークまでのRTを取ってたけど。
刺激呈示からポークアウトまでのRTはみないのだろうか。
個体差が大きいとはおっしゃっていたものの。
ポーク時間を変動にして、タイミングとれないようにして。
ある程度のタイムプレッシャーかければ、出そうな気がする。
被験者内要因なら個体差は問題ないわけだし。

P2-256 遅延付学習課題遂行中の海馬リップル波と前頭前野局所集合電位の関係
藤原 清悦, 明間 立雄

プログラムに「このポスターみた」チェックを付けてあるんだけど。
抄録を読んでも内容が思い出せない…。
歳です。

P2-265 グループ逆転課題遂行中のサル前頭連合野におけるカテゴリ情報の表現
細川 貴之, 筒井 健一郎

A群・B群の2グループの視覚刺激を用意し。
各グループを報酬量の大小と紐付けして、サルに選択させる。
で、ときおり報酬との関係を反転する逆転学習課題。

DLPFC・VLPFC・OFCからニューロン取ってて。
データとしてはかっちりした内容だと思うんですが。
どのへんが新規な部分なのかが分からなかった。
いままでこういうデータって取られてなかったでしたっけ?

P2-266 サル前頭連合野における複数のターゲット探索中の神経活動
楠 真琴, 渡邉 慶, John Duncan

ケンブリッジのDuncanのところの、楠先生の研究。
実際の実験はオックスフォードのほうでやってるのかな?
逆でしたっけ?

今回もなかなか複雑な課題をされていて。
後述のP2-269のポスターに神経活動データが出てるのですが。
課題が複雑過ぎてポスターに載りきらないので。
このP2-266のほうでは、課題の詳細と行動だけという。
難しくしすぎやて…。

全体の流れとしては、試行錯誤+記憶課題。
サルは最初、試行錯誤で正しい刺激を探し出して。
その後、同じ刺激が正答になる試行が数試行間つづくので。
そのあいだは、獲得した知識に基づいてexploit。
で、それが終わると、また試行錯誤試行でexplore。

刺激の次元は、2種類を試していて。
「正しい空間位置」が決まってる位置探索記憶課題と。
「正しい絵」が決まってる物体探索記憶課題。

また「正しい刺激」の個数にも複数条件があり。
プレースホルダの数は5個で固定なんだけど。
そのうち「正しい」ものの個数が1--3個で幅があり。
それによって、負荷の大小を変えている、っていう。
あぁややこしい。

で、カンジンの神経活動データは2つ下で後述。

P2-268 じゃんけん課題におけるサル前頭前野のニューロン応答
禰占 雅史, 中村 克樹, 宮地 重弘

じゃんけんにみられるような三つ巴関係。
AはBに勝ち、BはCに勝ち、CはAに勝つ。
英語ではtransverse patterningというらしいですが。
内側前頭連合野の関与を示唆する知見があるそうで。
そのニューロン活動を測ってみました、という実験。

そのモチベーション自体はたいへん興味をひかれるんですが。
やってる課題は、刺激対を出して一方を選ばせる課題で。
刺激AとBが出たらAで報酬がもらえるけど。
BとCだったら、Bを選ばなきゃいかん。
CとAならC、と。

うーん。
それだと単に「刺激対」に対して反応を連合すればいいんで。
十分に強化してしまえば、ただの連合学習だとおもう。
少なくとも
「じゃんけん課題」
という言葉がもつ面白さは、実際の実験場面からは消えてるような。

P2-269 複数ターゲットの探索と保持に関わる前頭連合野神経機構
渡邉 慶, 楠 真琴, John Duncan

で、2つ上のポスターの神経活動データのパート。
主題は作業記憶の容量制限と負荷の効果ってことで。
前頭連合野は、情報を符号化して短期的に保持するけど。
その場合の、記憶内容の数の効果を細胞レベルで知りたい、と。

結論からいうと、やはり数の効果はみられる。
たとえば空間位置なら、1つめの記憶内容は強くコードされて。
そこに加えて覚える2つめの表象は、選択性が弱まる。

空間位置における半視野の効果も検討していたけど。
これについては、いまのところあまり関係ないカンジらしく。
2刺激が半視野内にあっても別半視野でも、差はなさそうみたい。

いやじつは、ホントはもっと詳しい内容載ってたんですが。
細かく聞くまえに、雑談をはじめてしまいまして。
課題が複雑ってことも災いし。
重要なとこがあんまり把握できてないっていう。

いま振り返ると、理解不十分なところだらけで。
課題の意図するところも、大枠は理解できるものの。
セットサイズの効果をみるだけなら、もっと単純にできそうだから。
そこにはなにか理由があると思うんですが。
残念ながら聞きそびれました。
なんという役に立たない感想 orz orz

P2-368 ラット皮質におけるオペラント条件づけした発火のニューロン集団間での転移
宋 基燦, 櫻井 芳雄

ニューラルオペラントにおける条件づけの転移可能性の実験。
ある細胞集団を、発火率などの指標でオペラント強化してやり。
その後、別の集団における同じ評価指標での条件づけをする。
後者の集団は、オペラント強化は初体験なワケだけど。
もし学習が転移するなら、条件づけが早くなるだろう、と。

発想はシンプルで面白いと思ったものの。
なんかいろいろ要因があって、大変そうだな…。
とくに発火頻度を強化する場合は、いろんな対照が要りそうな。
そして、演者さんがいなくて詳細は聞けませんでした。

3日目(2014.09.13)

P3-120 マウス一次視覚野の集団神経活動による刺激画像の再構成
吉田 盛史, 大木 研一

麻酔マウスの多数のV1ニューロンをCaイメージングし。
刺激誘発性応答から、受容野を推定。
さらに、テスト刺激への応答から、刺激をデコードしました。
…という内容だと思う。

これはどの部分が売りになるんでしょうか。
最近ちゃくちゃくと見直されつつある
「いやマウスって意外と視覚的な動物なんよ」
ってハナシの絡みなのかな。

P3-123 Functional organization of facial views within the face selective region in anterior inferotemporal cortex in macaque
Chia-Pei Lin, Manabu Tanifuji

ITの顔応答性ニューロンの、向き選択性と皮質内配列について。
あたし、顔ビジネスは基本的に門外漢なのですが。
ちょうど谷藤先生が説明されてたので、便乗して拝聴した。
ものすごくわかりやすかった。

簡単にいえば、ITには顔に強く応答するニューロンがいるが。
そういうニューロンは、顔が向いている角度に選択性をもってて。
同じ顔の角度に選択性をもつ細胞がカラム構造をつくっている。
そして角度選択性カラムは、皮質方向になだらかに変化してる、と。
(V1の方位選択性カラムみたいに。)

P3-124 サル下側頭葉皮質から記録した皮質脳波を用いた素材カテゴリーのデコーディング
寺本 傑, 長谷川 功

新潟大の長谷川先生のECoGシリーズ。
新学術の質感の関連らしく。
(1つ下の川嵜先生のほう?)
今回は、質感刺激に対するITのECoG応答からの、カテゴリのデコード。

結果、まあ予想通り質感素材のデコーディングはできる。
素材によっては成績が悪いのもあるようですが。
ガラスとプラスチックとか、見分けにくそうだし。
それはまあ妥当なところでしょうか。

ただ、質感の難しいのは「そのあと何が言えるか」で。
素材に応答する細胞がいるとか。
素材がデコードできるとか。
そういう結果はたくさんみるんだけど。
そもそもの
「質という特殊な感覚がどうやってつくりだされるか」
みたいな疑問にどうつなげるかが難しいし。
実際、そのへんに突っ込んだ成果っていうのは……。
どうなんでしょう?

P3-125 下側頭葉皮質における視覚応答の階層的な活動伝搬
川嵜 圭祐, 長谷川 功

1つ前と同じ、ITのECoGデータ。
こちらでは、ECoG電極間の情報量の伝搬に着目して。
刺激呈示以降、どんな時間推移でどう情報が流れてるかを調べている。

あたしはこういう解析、ぜんぜん不慣れですし。
そもそも、行列状に整列したデータじゃなきゃできないので。
詳しい解析内容の部分は、理解できてませんが。
基本的には、各電極信号のもつ刺激情報量を求めてやり。
そこから、近傍の電極の次時点での情報量をどれだけ予測できるか計算。
それをして「情報の流れた量」とみなすことで。
ノード間の情報のやりとりの差分から、情報の流れを調べる。
…というカンジでいいのだろうか。

抄録内容の関係上、あんまり詳しく書けませんが。
結果はちょっと、不思議なカンジ。
なんで先にそういう流れが生じるんでしょう?

あと、情報のソース・シンクとフローの数とかも算出されてて。
ひと昔前に流行った、ネットワーク理論のようなもの。
あれをECoG電極間で調べるってことができるみたい。
解析手法としては面白くて惹かれますが。
そこから何が言えたのかは、情報理論の門外漢には敷居が高い。

P3-127 帯域制限されたランダムドットパターンに対して固視微動が網膜応答に及ぼす影響
西野 誠, 小濱 剛

気になったので頑張って読んだんですが。
図内のどの部分をもとに解釈をつけてるのかが書かれてなくて。
ポスターを読んだだけでは、理解できず。
ちゃんと説明を聞きたかった。

P3-128 高次視覚皮質におけるトップダウンとボトムアップ情報の統合を再現する神経機構モデル
前田 侑大, 小濱 剛

視覚運動系領域のニューロン活動は、注意によって修飾を受け。
Pop-outするような刺激には強く反応するし(ボトムアップ)。
難しい結合探索でも、徐々に応答強度に差が生じる(トップダウン)。
両者は側頭頭頂接合部(TPJ)で統合されると仮定し。
それに沿ったモデルをつくったところ。
TJPやFEFのニューロン活動を模倣できました、という報告。

いまひとつ理解できていないんですが。
注意の影響って、モデル上はどう実装するかというと。
特定の刺激のとき、素子にボーナス電流を入れるわけだよね?
それを適当な強度と時間推移で与えてやれば、さ。
実データをミミックする活動なんて、好きにつくれません?

重要なのは、発火パターンが模倣できるかどうかじゃなくて。
狙ってつくった以外のトコまで一致するか、ではないの?
たとえば、難易度の高低によるRTの違いまで説明できるとか。
正答率のパターンまで実データと一致するとか。
モデルのよさって、そういう部分でみるべきと思うんですが。
単に似てる活動パターンができればOKなのでしょうか。

P3-129 自然画像上における視線移動の特徴に対する評価指標
吉野 宏紀, 小濱 剛

ヒトが自然画像のどこを見るかには、いろんな要因が関与するため。
それを1内的変数に統合したのが、顕著性の考え方。

ただ、画像の顕著性自体は時間変化しないので。
連続して何ヶ所も注視する動的な視点推移の予測はしにくいので。
注視位置の履歴を加味した改良版モデルが提唱された。
本研究では、これらの注視位置予測のモデル間比較のため。
注視点推移の特徴を評価するための3つの指標を定式化し。
実際のヒトの眼球運動とモデルとの一致を比較した。

問題意識はたいへんわかりやすく。
つくってる指標も、
  • 注視した位置の画像特徴の類似性
    (画像的に似た点をどれだけ注視しやすいか)
  • 注視点間の距離の特性
    (どれだけ離れた点に次の注視を移しやすいか)
  • 注視間の眼球運動の角度の特性
    (どれだけ異なる角度へ目を移しやすいか)
という、直感的に理解しやすいものでした。

ただ、ちょっとひっかかるのは。
この指標づくりって、単体の研究としてやるものなのだろうか。
あたしの認識としては、
「われわれはこーいう新しいモデルを提唱しまして」
「その評価のために、こーいう指標をつくって比較してやりますと」
「既存のモデルよりわれわれのほうが優れていました」
っていう流れ全体が、ひとつの研究であって。
評価のための指標づくり単体で、イチ研究になるのかは謎。

あと、内容的な面でいうと。
3つめの角度の指標については、計算上の疑問点があって。
角度をそのまま数値として扱ってそうな式でした。
複素平面でやってたか、演者さんは定かではないとのことで。
この指標の結果については、信頼性は不明。
やってることの意図はよく理解できるんですけどね。

P3-132 ニホンザルがcoo callで発声個体を識別する際の声道特性の役割
古山 貴文, 力丸 裕

完全なる私的興味です。
2頭のサルのクーコールで、音声Go/No-go課題を訓練し。
基底周波数と声道特性を分離・合成したりして。
個体識別に重要な要素を調べたりしてるみたいだったけど。
演者さんがみつかりませんでした。

P3-178 マウスのラバーテイル課題の開発:視覚遮断の効果
和田 真, 神作 憲司

ラバーハンドイリュージョンってありますよね。
自分の手は視野外に隠した状態で、ゴム製の手を見せられ。
ホントの手とゴムの手に同期して刺激を与えつづけられると。
だんだんゴムの手が自分の身体のように感じられるってヤツ。

この錯覚は、身体の自己帰属性に関する興味深い現象なんですが。
あれと同様のことがマウスでもやりたいということで。
ゴム製の尻尾をつかってやってみた、という実験。
尻尾なので、ラバーテイル課題。

いや、やってることは至極興味深い(interesting)んだけど。
それ以上に、実験風景を想像すると面白く(funny)って。
ポスター読みながら、思わずニヤけてしまった。

P3-223 コモンマーモセットにおける図形弁別と逆転学習の成績個体差
竹本 篤史, 三輪 美樹

著者情報からなぜかボスが抜けてるんですが。
中村克樹先生のところの、マーモのデータです。

これまでに40頭超のマーモセットを訓練してきて。
もちろん各個体は、それぞれ別個の研究に参加するため。
やらせる課題とかは、その都度違う。
ただ、最初期の共通訓練として、連合学習と逆転学習をやらせてるので。
その集団データを出してきました、という。

実際に手を染めてないと、なかなかわからない部分ですし。
個人的に興味のある内容だったので。
つい長々と雑談させていただいてしまった。

で、メッセージとしては
「マーモは実験動物として使えますよ」
ということらしい。
もともと神経質で機器に慣れないって個体も、ごく稀にいるが。
大半の個体は、連合学習も逆転も問題なくできて。
実験動物としての十分な素質を備えてる、と。

また、やっぱたくさん飼育できるというのがメリットで。
1部屋で数十頭って単位で飼えるから。
個体数的にはすごく余裕ができるとのこと。
マーモといえば、遺伝的操作もかなり整いつつあって。
これからどんどん使われていきそうですね。

もちろん何もかもスイスイいくわけではないから。
やってりゃ色々と困難もあるそうでしたが。
そのへんは抄録に載ってないので割愛。

P3-227 内在的ネットワークの結合性から個人の作業記憶訓練の学習プラトーを予測する
山下 真寛, 今水 寛

認知課題成績の個人差と領域間機能結合の関係の研究。
被験者間で差が出やすいよう、難しい3-back課題をやらせ。
その成績と、安静時fMRIでの領域間結合との関連を調べた。
結果、一部の領域間の機能的結合から課題成績を予測でき。
とくに重要だったのは、左前頭頭頂ネットワークということで。
前頭葉課題から予想される通りの領域が出てきた、と。

ストーリーがシンプルなだけでなく。
ポスター自体のみためもすごく綺麗で。
読んだだけでもわかりやすかったです。

P3-229 小児におけるワーキングメモリ成績と左下前頭回の灰白質体積との相関
柿沼 一雄, 瀧 靖之

こどもにおける作業記憶機能のモーフォメトリー(VBM)。
ようは、認知機能と相関する脳構造差異の研究。
T1強調とWISCの作業記憶成績との関係を解析し。
左下前頭回の灰白質容量との相関を見出した、と。

モーフォメトリーの研究って、みるたび思うんですが。
どのへんまで信頼できるのでしょうか。
ボクセルごとだと、全脳でえらい回数の多重検定になるわけで。
しかも、ただでさえ個体差の大きな、こどもの脳構造画像。
標準脳にマッピングする際に、歪み量の領域間差とかありそうだし。
「VBMの結果、有意なボクセルがぽつぽつっとみつかりました」
といわれても、不安なんですよね。

そのへん、演者さんがいれば聞きたかったんですが。
残念ながらご不在でした。

P3-230 rTMSを用いた機能阻害によって明らかになった遅延反応課題における大脳皮質諸領野の役割分担
中村 晋也, 筒井 健一郎

サルを用いたrTMSによる機能阻害の研究で。
遅延反応課題中に、いろんな脳部位にrTMSをうってやり。
課題成績に対する影響を調べた実験。
地味だけど多くのひとの役に立つ、重要な検証ですね。

P3-231 遅延反応課題遂行中のラット頭頂連合野における感覚情報と運動情報
舘山 幸菜, 筒井 健一郎

「読んだマーク」が付けてあるんだけど…。
内容がぜんぜん思い出せない。
ごめんなさい。

P3-236 短期記憶施行の正誤と両運動前野間の機能的結合との関連
菊池 龍, 石山 敦士

これも記憶がない…。
寝ながらポスター読んでたのかあたし?

P3-240 我が子の視線方向情報により誘発される注意定位の神経学的基盤ー事象関連電位による検討
土居 裕和, 篠原 一之

母子を対象とした視線誘発性注意の研究。
こどもの顔の視線方向へ注意を向ける課題を、母親にやらせる。
自分のこどもの写真のときは、注意が視線方向へ向けられたが。
他人のこどもの写真では、それがほとんどみられなかった。
指標としては、脳波における前頭陰性波の側性化を取ってる。

ある意味、予想通りの結果なんですが。
他所の子だからって、対側陰性波がないってのはどうなんだ。

P3-262 健常小児における家庭学習時間、認知機能と脳形態との相関
浅野 路子, 川嶋 隆太

こどもの家庭学習時間のモーフォメトリー。
P3-229と同じデータセットなのかな?
(就学期児童でみるため、使う年齢幅は少し違うけど。)

結局は前述のポスターと同じ疑念があって。
"voxel-wise FWE-corrected"って書いてるけど。
全ボクセルで第一種の過誤を統制してるってコトなの?
それって有意限界メチャメチャ厳しくね?
全脳で何万ボクセルあんのさ。

感想

はいー、感想ー。
超腰が痛いです。
毎年これしか言ってない気がする(笑)

いやほら、わたし、今年はポスター出さなかったので。
そのぶんいつもより落ち着いてみられるかなーと思いきや。
結局は全日とも、ポスター聞くのに駆けずりまわってたわけで。
3日間のうち1日、自分のポスターに立とうが、会場うろついてようが。
ボロボロに疲れるってことに変わりはないですね。

というか、発表出してると、その日は他のポスター聞けないけど。
今年はその1日分も、いろいろ聞いてまわれたんで。
収穫が多かったかわりに、まとめメモの作成がたいへんだった。
腕パンパンですわ。
そのうえ、キャパシティオーバーで早くも忘却した内容多数。
ほんとに不甲斐ない。

で、そこまでしたなら、今年こそ聞きたいの全部まわれたかっつーと。
ぜんぜんそんなことはなかった。

とくに齧歯類関係の個別の実験報告に関しては。
面白そうだと思っても、優先順位的にあとまわしになっちゃって。
結局そのまま聞けず終い、ってのが多数ありました。
大木研・細谷研・村山研のポスターとか。
かなり重要そうなデータもいろいろあったのに。
聞きにいってる時間がなかったり。
人垣ができてて聞こえなかったり。
たいへん無念である。

今年はシンポジウムもほとんど聞きにいかず。
ほぼポスター会場に張り付いてたのに、このありさまとは。
やっぱ身体ひとつじゃ足りなくね?

てなカンジで。
例年以上に、存分に情報収集した今年の神経科学大会。
いろいろと尻に火がついた、キツキツな時分の出張で。
取られた時間的にはかなり痛かったですが。
そのぶん、得られる情報の密度も高いです。
会場で出会った先生がたや先輩と雑談したりもでき。
そのへんの意義も、なにげに重要だしね。

ただ、今年は完全な聴衆側になっちゃいましたが。
やっぱこれは味気ないので。
来年はちゃんとデータ出そう。
そう意識をあらたにしました。