第34回 日本神経科学大会(2011)の記録

2011年の神経科学学会に参加した際の記録です。
自分自身が聞いたことの備忘録なので、間違いなど多々あるとおもいます。
ご注意ください。

発表者が複数いる場合、ファーストとラスト、あるいはラストに準ずるひと2~3人だけ表記。
(みやすさの優先で。)
アスタリスクつきのポスターは、自分でちょろっと読んだだけのヤツ。
アスタリスクなしは、ちゃんと発表者に説明してもらったヤツです。

基本情報

会場はみなとみらいのパシフィコ横浜。
ですが、オーガナイズ担当は関東圏の機関ではなく。
なぜか東北大を中心とする北日本運営の実行委員会。
大会長は東北大の大隅典子先生です。

今年の大会の例年との一番の違いは、会期が4日間になったことでしょうか。
といっても、1日目は夕方の講演2枠のみで。
シンポやポスターの開始は2日目から4日目まで。
なので、実質いつもの3日間構成と変わらず。
なにがやりたかったんだろうか、運営は。

スケジュール

4日間のあたしの動き。
3枚だけど4日間(笑)



トーク

1日目(2011.09.14)

SL1 iPS細胞研究の進展
山中 伸弥

PL1 Developmental disorders - a window on the mind
Uta Frith

2日目(2011.09.15)

S2-C-1 自己の中の他者:社会神経科学の新展開
Chris Frith, 磯田 昌岐

あんまり社会性認知みたいなハナシは好きではないんですが。
今大会のなかでは、数少ない自身のフィールドがらみのシンポのひとつだったので。
聞いてきました。
やっぱChris Frithのサル2頭ならべての実験のはなしが印象的だったかな。
相手との上下関係により行動が違うってのは、やっぱ面白いし。
一部の行動が常識的な予想と異なるってのも、謎めいたカンジで。
これからの研究の進展を期待させるうまさがある。

LS3 マルチフォトンタイムラプスで広がる蛍光イメージングアプリケーション
西山 隆太郎

なんか妙にランチョンセミナーが多かった今大会。
初日(というか2日目)はライカのランチョンへ。
自分でつかってるわけじゃないけど、やっぱ多光子技術はいいね。
いろんな発展の可能性を感じる。

AL2-1 活動依存的な遺伝子発現誘導・突起伸展機構
尾藤 晴彦

AL2-2 内因性カンナビノイドによるシナプス伝達修飾と統合脳機能
狩野 方伸

3日目(2011.09.16)

S3-B-1 光生物学から神経科学へのメッセージ-光情報伝達タンパク質のオプトジェネティクス
八尾 寛, 小泉 周

やっぱ分野がら、虫明先生のトークは気になるよね。
「動的神経回路への新しいアプローチとしての光遺伝学的手法」
こういう手法がメジャーになれば、やれることいっぱいあるよなー。
PFCとかになると、活動依存的な導入・発現メソッドとかがないと厳しいが。
(明確な機能コラムがないので、盲目的に光刺激しても意味ない。)

LS10 エレクトロポレーション法が開拓する新しい脳機能研究
山本 亘彦

あたしは聞いたことないメーカーだったんだけど。
面白そうだったので、ベックスのランチョンへ。
スライド資料の配布とかあって、けっこう勉強になった。
子宮内電気穿孔法とか、3機関で同時期に、独立に開発されたんだね。
知らなんだ。

PL3 Cortical Interneuron Generation and Migration
John Rubenstein

4日目(2011.09.17)

S4-H-1 ゲノム科学的脳高次機能研究の現在と将来
泰羅 雅登, 佐々木 えりか

マーモセットにおける遺伝学的手法の近年の発展について。
第一人者たる岡野先生のグループのデータをはじめとして。
その他、高次認知機能屋にはよだれがでるような、最新の方法論の発表。
(゜ρ゜)

マーモはやっぱマカクより賢くないとか、よく口の端にのぼるけど。
個人的には、単純系アプローチが好きな人間なので。
課題むずかしくすればいいってもんじゃないとおもうし。
マーモセットにはかなり期待しています。

LS12 神経再生・疾患研究とバイオイメージング
内山 安男

上記のシンポジウムに引き続き、ってカンジになりますが。
岡野先生による、遺伝子改変マーモセットを用いた研究に関するトーク。
聞いててかなり面白い。
少なくとも変異マーモは、疾患研究の方面では明らかに約束されてるよね。
問題は、認知機能研究にどこまで応用していけるかって部分だが。

ポスター

2日目(2011.09.15)

P2-h17 後頭頂皮質における注視期間活動の時間的構造は記憶期間の活動強度を予測する
西田 知史, 小川 正

P2-h20 エクスプレスサッカードには第一次視覚野は必須ではない
吉田 正俊, 伊佐 正

表題のとおり、V1がなくてもエクスプレスサッケードができるというハナシ。
こないだのASSCで出してたのと、たぶんほとんどおなじデータですよね。
コレって、ところどころ微妙に解釈に苦しむトコがあるんだけどな、あたし。

3日目(2011.09.16)

P3-k06 マカクザルの視覚探索課題においてサッカード反応時間に見られる視覚的特徴次元の統合の効果
大渕 藍, 田中 智洋, 小川 正

P3-n04 ラットの選択行動における不確実性選好とその報酬条件依存性
船水 章大, 銅谷 賢治, 高橋 宏知

P3-n05 作業記憶課題におけるドーパミンニューロンの課題関連性応答
松本 正幸, 高田 昌彦

P3-n06 頭部固定の視覚弁別課題によってラットの非感性的補完の能力が示唆された
吉田 崇将, 加藤 英之

P3-n07 背側・腹側線条体における価値ベースと状態ベースの意思決定アルゴリズムの神経表現
伊藤 真, 銅谷 賢治

P3-n13 マッチング行動の発達には側坐核コアが関与する
甲斐 信行, 小林 和人

P3-n14 行動決定時におけるラット前頭前野内側部の錐体細胞と介在細胞の調和的活動
半田 高史, 礒村 宜和, 深井 朋樹

P3-o04 探索方略の柔軟な転換に関わるサル前頭前野の神経活動
藤本 淳, 西田 知史, 小川 正

まえまえから、
「PFCだと眼球運動方向で選択性でるの明らかなのに、なんで要因が色なの?」
っておもってたんですが。
ちょうど空いてたので、聞いてみた。
曰く、
「位置の探索とかにすると、方向によって一過性応答が強く出すぎる」
「そうすると、方略切り替え時の関連活動とかがみえにくい」
「なので探索次元は色にし、方向は試行ごとにバラして相殺してやったほうがいい」
とのこと。

ふーん、そんなもんですかね。
別に位置探索でも、ベースラインを方向ごとにとってやればいい気がするがね。
knowledge-basedのときを基準に、他のエラー試行での活動をみるとか。

P3-o13 系列行動における反応方略の神経メカニズム
石野 誠也, 高橋 晋, 櫻井 芳雄

P3-o14 ノルアドレナリンα2受容体作動薬投与はラット迷路学習を阻害する
雨宮 誠一朗, 北 一郎

P3-p07 他個体の存在がラットの情動反応と回避行動へ与える影響
成清 公弥, 増田 明, 粟生 修司

「他個体にみられてても、ラットの行動変わんねー」っていう結果だった。
(´д`)なんと
いやまあ、「~へ与える影響(…はなかったよ)」ってことだから。
ウソではないんだが。

4日目(2011.09.17)

P4-h01 随意的に形成された仮想的アクションプランに基づく動作選択と実行におけるマカクザル前頭前野、運動前野背側部、ならびに、一次運動野の機能的関与
橋本 雅史, 丹治 順, 星 英司

こないだ論文になってたヤツですよね?
ラボのJCでも読んだんだけど、いまいちいいたいことがわからん。
PSTHはやたらたくさん載ってて、細胞の皮質上分布とかも描いてあるんだけど。
主張したいことがみえてこないというか。

P4-h02 視覚運動変換学習における潜在的な複数のエラー情報処理
春日 翔子, 野崎 大地

P4-h03 視覚刺激により誘導される抽象的行動計画と運動計画の発達における淡蒼球と運動前野の神経活動の比較
有村 奈利子, 丹治 順, 星 英司

P4-h08 アクションの企画、準備、実行を反映する細胞活動の6つの運動領野内の特異的な分布
中山 義久, 丹治 順, 星 英司

P4-m16 サル外側前頭前野による目標の神経表現は自由選択と強制選択で異なる
横山 修, 坂上 雅道

味の異なるジュースの報酬を、サルに選ばせる試行と、一方を強制的に与える試行。
それぞれの試行のLFPを記録し、サルの選択を機械学習でデコードしたという報告。
高周波成分が軒並みデコード成績良いっていうのが、なんというか若干きな臭いね。

P4-o14 ウィスコンシンカード分類課題において誤反応を予見する前帯状溝皮質の神経細胞活動
桑原 優, Farshad A. Mansouri, 田中 啓治

感想

震災にはじまる一連の騒動で、しばらくは関東地方も混乱状態が続いていたわけで。
このタイミングでの、横浜大会。
しかも運営は東北大学が中心ということで。
一時は開催もどうなることかと心配されていました。
それがこうして開催され、無事に幕を閉じた。
まずはそのことを喜びたいとおもいます。

演題締切が何度も延長されたり。
いつまでたっても演題検索ができるようにならなかったり。
そりゃまあ、なにもかもが例年と同じ水準というわけではなかったでしょうが。
蓋をあけてみれば、演題数も(単独大会では)過去最高。
実際、会場をまわっても、例年より寂れたなどということもなく。
いつもどおり、有意義な学会大会でした。
運営委員会の先生方に感謝申し上げたいです。

で、大会で見聞きした内容について。
自分の研究との関連で一番気になったのは、やはり泰羅先生のシンポですかね。
個人的に、マーモセットにはかなり注目しています。
遺伝学的方法論が整えば、いろんなことができるってのもそうだし。
そういう場面では、あたしのような認知畑の人間の雇用機会もありそうだしね。
(笑いつつ真顔w)

あ、あと、ポスターの記録に関して。
いちおう見聞きしたものには、手元の冊子にチェックをつけておいたので。
それを頼りに書き出したのですが。
2日目とか明らかに少ないし、だいぶチェックつけ忘れたかもしれませぬ。
申し訳ない。

それと、自分の発表に関するわたくしごとですが。
今回、わたしの研究にかなりカンケーありそうな報告が他研から出てまして。
そのひとが聞きにくるのを警戒し、自分のポスター前にあまり立ってませんでした(笑)
基本的には、まわりのポスターを読みながら、自分のポスターを遠くから監視して。
ひとがきちゃったら、しょうがないから戻って説明するという。

そのため、今回説明をできたのは、せいぜい5人強くらい。
しかも結局、その他研のポスターをみにいったら、わりとやってることが違ったうえ。
質問してるうちに身元がバレたので。
自分のポスター前に連行され、そのかたにも説明したっていう、ね。
もうね、バカじゃないの。

そのうえ、そんなこんなでヘロヘロになっていたので。
撤収ちかくになって、松本正幸先生が聞きにきてくださったんですが。
なんと正体に気づかないという体たらく。
あとになってから、
「え、彦坂先生のとこにいたっていってたし、あれ松本先生じゃん」
って気づいたという(爆)
これは死にたい。

いやはや、その節はホントに申し訳ありませんでした。
これがあるから学会大会は怖いわ。