ニューロサイエンス入門
読み易さ:難★★★★★☆☆☆☆☆易面白さ:眠★★★★★★★★☆☆興
専門性:一般★★★★★★★☆☆☆専門
有用性:趣味★★★★★★★★☆☆実用
総合評価:ビミョー★★★★★★★★★☆オススメ
「脳科学・神経科学を勉強したい」というビギナーの方にオススメの本です。
著者の松村道一先生は、京都大学総合人間学部の教授。(2007現在)
正確に言えば、京都大学大学院人間・環境学研究科 共生人間学専攻 認知・行動科学講座 行動制御学の教授ということになりますが…
ひらたく言えば、「体を思いどおりに動かすための神経機構」の専門家です。
本著は著者によれば「生物学・化学の知識がない学生でも分かるよう、神経科学の基本を網羅的に紹介」した本です。
実はこれはかなり難しいことだと思います。
昨今の神経科学の領域は、これを学んでいる一学生の立場から言っても、生物学的教養や化学式、数式なしには理解できなくなっています。
しかしいっぽうで、そのような基礎知識を持たない文系の方でも、脳科学に興味を持つ人が多いようです。
なぜなら脳科学は、「ヒトのこころ」を理解するための学問としていまや心理学と肩を並べており、またテレビなどでもその一端をよく目にするようになったからでしょう。
そのような方にとって学習のネックとなるのは、なんといっても理系的基盤の少なさです。
そこで著者は本著中で、最新の事項や興味深い事項にスポットライトをあてながら、なるべく科学のことばを使わずに、平易な文章で神経科学の基礎を解説しています。
また本のなかのそこかしこには、教養深いビッグネームの研究者によく見られるような、著者のユーモラスな面がうかがえます。
京都大学の学生として松村教授を知っている自分としては、普段みられない先生のおちゃめな一面が見え隠れするのが、楽しいかぎりです。
かといって本書は、一般向けに書かれた脳科学の本によく見られるような、トピック的で非科学極まりないトンデモ本のたぐいとはまったく違います。
本書で学習できる内容は学部での勉強の基礎として十分通用しますし、ヘタな講義を取るよりよほど勉強になります。
また脳・神経科学の全貌をこのような入門書で学習しておくと、専門書を読んで勉強する際の助けになります。
とくにこの分野は日本語の専門書が少ないということもあり、専門的に勉強しようと思ったら多くの洋書を読むことになります。
日本語の入門書でなんとなくでも基礎知識をかためてあることは、洋書を読むときには非常に役立ちます。
理系の方としては、「数式や化学式をなるべく使わずに」ということに対して、逆に不安を抱くかもしれません。
たとえば「化学式なしで本当にちゃんと説明できてるの?」みたいに。
しかしそれは無用な心配です。
詳細な化学式なしでも、より主観的な概念(自分のことば)として神経の機構を学習・理解することは、脳・神経科学において必須であるからです。
ゼミなどでよく細々とした知識をひけらかして発表者を困らせる学生をよく見かけますが、そういう人にかぎって、その分野そのものに対する理解や自分の意見といったものが欠如しています。
高校3年間で詰め込み型受験勉強に慣れてしまっているというのも、ひとつの原因なのかもしれません。
しかし本当に重要なことは、化学物質名や数式を覚えることではなく、脳と神経系の機能を体系的に理解して、この分野においてどんな問題意識があるのかを自分の実感として持つことだと思います。
そしてそのような勉強をしようと思うなら、やはり最初は専門書よりも本書のような入門書を読み、脳科学の「世界観」に触れてみるのが良いでしょう。
本書『ニューロサイエンス入門』は、専門的な内容を平易な文章で書き下した良書で、理系・文系どちらのかたにもおすすめできます。
またすでに神経科学の基礎知識をお持ちの方でも、自分の知識を整理がてら、一読をおすすめします。
一般の方には少し敷居が高いかもしれませんが、脳科学の面白さを概観できる入門書としては、本書以上のものはいまのところないと思います。
一般書店ではちょっと手に入りにくいかもしれませんが、内容の良さは保証できますよ。
総合評価は星9つ★★★★★★★★★☆とします。
(2007. . )